介護保険料の計算方法とは?企業での疑問点や第2号被保険者の給与計算実務を解説
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従業員の給与計算は、毎月正確さが求められる重要な業務です。中でも社会保険料の計算は種類が多く、制度の変更もあるため、特に気を使う部分ではないでしょうか。
その一つである「介護保険料」は、40歳以上の従業員がいる場合に計算・徴収が必要となるため、多くの企業にとって関係のある項目です。
「うちの会社の従業員の介護保険料って、どうやって計算すればいいんだろう?」「40歳や65歳になる従業員がいるけど、手続きはどう変わるの?」「育休中の扱いは?」など、具体的な計算方法や実務上の疑問点、ありませんか? 介護保険料の計算を間違うと、後々修正の手間がかかるだけでなく、従業員からの信頼にも関わる可能性があります。
この記事では、そんな人事・給与計算担当者の皆様に向けて、介護保険料の計算方法を基礎から分かりやすく解説します。
目次
介護保険料とは
介護保険料とは、将来必要になるかもしれない介護サービス費用を、社会全体で支え合うために40歳以上の国民が負担する保険料のことです。 従業員の給与計算を行う上で、健康保険料や厚生年金保険料と並んで考慮が必要なもので、特に40歳以上の従業員を雇用している場合、この介護保険料の計算と徴収は企業にとって重要な業務の一つ。
「介護保険」という言葉は耳にしていても、その詳しい仕組みや保険料の決まり方について、「実はよく知らない…」という方もいるのではないでしょうか。
ここでは、まず押さえておくべき介護保険制度の基本的な考え方や、企業の関わりについて解説していきます。
・高齢者の介護費用を社会で支える仕組み
・企業は第2号保険料を集めて支払う役割
・加入者は年齢で第1号と第2号に分けられる
高齢者の介護費用を社会で支える仕組み
介護保険制度は、介護が必要になった高齢者やその家族の負担を、社会全体で支え合うために作られたものです。日本は長寿国である一方、高齢化が進んでおり、介護を必要とする方も増えています。もし介護にかかる費用を全額個人で負担するとなると、経済的にも精神的にも大きな負担になりかねません。
訪問介護やデイサービスを利用したいと思っても、費用が高額で利用をためらってしまうかもしれません。介護保険制度は、こうした状況を防ぐための「助け合い」の仕組みです。
企業は第2号保険料を集めて支払う役割
企業が介護保険制度において担う主な役割は、40歳から64歳までの従業員(第2号被保険者)の介護保険料を徴収し、国に納めることです。従業員本人が市区町村に直接支払うのではなく、会社が給与計算を通じてその手続きを代行する形を取ります。
具体的には、毎月の給与計算時に、対象となる従業員の介護保険料を計算して給与から天引きします。従業員から預かった保険料と、会社が負担する保険料(半分ずつ負担する労使折半です)を合わせて、加入している健康保険組合や協会けんぽといった医療保険者へ支払う、という流れです。
加入者は年齢で第1号と第2号に分けられる
介護保険の加入者は、年齢によって大きく2つのグループに分けられ、保険料の決まり方や支払い方が異なります。計算方法を理解する上で、この違いを知っておくことはとても重要です。
主な違いを簡単な表にまとめました。
区分 | 対象年齢 | 保険料を決める人 | 主な支払い方 |
---|---|---|---|
第1号被保険者 | 65歳以上 | 市区町村 | 年金天引き または 納付書 |
第2号被保険者 | 40歳~64歳 | 医療保険者 | 給与・賞与から天引き(会社経由) |
65歳以上の「第1号被保険者」の保険料は市区町村が所得に応じて決め、支払いも年金天引きなどが中心です。
一方、企業が主に関わるのは40歳から64歳の「第2号被保険者」で、保険料は医療保険者が決め(料率は後述)、会社が給与から天引きして納付します。
第2号被保険者の介護保険料計算方法
企業の給与計算において、特に40歳から64歳までの従業員、つまり「第2号被保険者」の介護保険料をどう計算し、どうやって給与から天引きするかは、担当者にとって非常に重要な実務です。計算ミスは、後々の修正手続きや従業員からの信頼に関わることもあるでしょう。
ここでは、第2号被保険者の介護保険料について、計算の基本から、保険料率のこと、会社と従業員の負担割合、給与からの集め方、さらには給与明細への記載や細かい端数の扱いまで、実務で押さえておきたい点を解説していきます。
・給与や賞与の基準額×保険料率で計算
・保険料率は加入医療保険ごとに毎年変わる
・保険料は会社と従業員で半分ずつ負担
・給与と賞与から天引きで集める
・扶養家族がいても計算方法は同じ
・給与明細に引かれる保険料額を書く
・保険料の端数はルール通り計算する
給与や賞与の基準額×保険料率で計算
第2号被保険者の介護保険料は、「保険料計算の基準となる金額」に「介護保険料率」を掛けて計算します。毎月の給与については「標準報酬月額」が、賞与(ボーナス)については「標準賞与額」が、それぞれ基準額となります。
「標準報酬月額」とは、毎月のお給料を分かりやすく等級分けした金額のことです。基本給だけでなく通勤手当なども含めた月給全体を基に、「あなたの等級はこの金額ですね」と決められます。
賞与の場合も同様に、税金を引かれる前の金額から千円未満を切り捨てた「標準賞与額」(上限あり)を基準として計算する仕組みです。
保険料率は加入医療保険ごとに毎年変わる
計算に使う「介護保険料率」は、全国どこでも同じではありません。従業員がどの健康保険に入っているかによって、適用される料率が異なります。
全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、通常は都道府県ごとに料率が設定されています。
一方、企業グループなどで作る健康保険組合(健保組合)の場合は、組合ごとに独自の料率を設定です。そのため、A社の従業員とB社の従業員では、給与が同じでも介護保険料が違う、ということが起こり得ます。
この料率は毎年見直されるのが普通なので、常に最新の情報を確認し、給与計算に反映させることが大切です。
保険料は会社と従業員で半分ずつ負担
計算して出てきた介護保険料の全額を、従業員が一人で負担するわけではありません。健康保険料などと同じように、会社と従業員で費用を分け合う「労使折半」というルールが適用されます。
ある従業員の介護保険料が計算の結果、月額で10,000円になったとしましょう。この場合、従業員の給与から天引きされるのは、その半分の5,000円。そして、残りの5,000円は会社が負担し、会社負担分と従業員負担分を合わせて医療保険者へ支払うことになります。
給与と賞与から天引きで集める
会社は、従業員が負担する分の介護保険料を毎月の給与や賞与を支払うときに、あらかじめ差し引いて(天引きして)預かります。
健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料、所得税などと同じ仕組みです。給与明細を見ると「控除」の欄に色々な項目が並んでいますが、介護保険料(40歳以上の従業員の場合)もその一つとして、給与計算ソフトなどで自動的に計算・控除されるのが一般的となっています。
扶養家族がいても計算方法は同じ
第2号被保険者の介護保険料計算において、扶養家族の人数は関係ありません。
介護保険料の計算に使われるのは、あくまで保険に加入している従業員本人(被保険者)の給与や賞与の基準額(標準報酬月額・標準賞与額)です。
同じ給与額の従業員が二人いて、一人は独身、もう一人は配偶者と子供二人を扶養している、という場合でも、二人が負担する介護保険料は同額になります。
給与明細に引かれる保険料額を書く
毎月従業員へ渡す給与明細書には、基本給や手当などの支給項目だけでなく、何をいくら差し引いたかという控除項目も記載します。介護保険料(従業員負担分)も、この控除項目の一つとして、金額を明記することが法律で義務付けられています。
給与明細の控除欄に「介護保険料」といった項目を設け、その月に給与から天引きした金額を分かりやすく表示しましょう。従業員は自分がいくら保険料を負担しているのかを確認でき、給与計算の透明性も高まります。
保険料の端数はルール通り計算する
介護保険料を計算し、会社と従業員の負担分(半分ずつ)を計算すると、「○○円50銭」のように、1円未満の端数が出ることがあります。この細かい端数をどう扱うかにも、一応のルールが存在します。
一般的に多く用いられているのは、従業員負担分の端数について、「50銭以下なら切り捨て、50銭を超えていれば切り上げて1円にする」という方法です。従業員負担分が5,000円50銭なら5,000円に、5,000円51銭なら5,001円にする、といった具合です。
第1号被保険者(65歳以上)の介護保険料
従業員が65歳を迎えると、介護保険の世界では「第2号被保険者」から「第1号被保険者」へと立場が変わります。この変化に伴って、介護保険料の計算方法や支払い方もガラリと変わるため、担当者としてもその違いを把握しておくことが大切です。
会社が給与から天引きする、というこれまでの方法ではなくなりますが、従業員から「保険料の支払いってどうなるの?」といった質問を受けることも考えられます。
ここでは、65歳以上の第1号被保険者の介護保険料について、企業として知っておくべきポイントを見ていきましょう。
・65歳からは市区町村へ直接支払う
・会社が給与から天引きしなくなる
・保険料額は市区町村が所得に応じて決める
65歳からは市区町村へ直接支払う
65歳になると、介護保険料の納付先が会社経由ではなくなり、従業員本人がお住まいの市区町村へ直接支払う形に変わります。これが第1号被保険者の大きな特徴です。支払い方法には、主に2つのパターンがあります。
一つは「特別徴収」で、年金から自動的に保険料が天引きされる方法です。老齢年金などを定期的に受け取っている方の多くはこちらの方法で支払います。
もう一つが「普通徴収」で、市区町村から送られてくる納付書を使って、自分で銀行やコンビニなどで支払う方法です。年金の受給額が少ない方などがこの対象となります。
いずれにせよ、会社を通さずに市区町村と本人の間で支払いが完結するため、企業の給与計算業務からは切り離されることになります。
会社が給与から天引きしなくなる
第1号被保険者の保険料は市区町村が管理するため、企業実務においては、会社が従業員の給与から介護保険料を天引きする必要がなくなります。
従業員が65歳になる誕生日の前日が属する月、その前月分の保険料までを給与から徴収したら、それ以降の介護保険料の天引きはストップします。8月15日が誕生日の従業員なら、7月分まで(通常8月支給の給与で天引き)が対象です。
9月支給の給与からは介護保険料の控除項目がなくなる、というわけです。ただし、健康保険や厚生年金などの社会保険料は、加入資格が続く限り徴収が必要なので、混同しないように注意しましょう。
保険料額は市区町村が所得に応じて決める
第1号被保険者の介護保険料額は、全国一律の料率や会社の給与基準で決まるわけではありません。住んでいる市区町村が、本人の前年の所得や世帯の状況などに応じて金額を決定します。
多くの市区町村では、所得に応じて保険料を何段階かに分けて設定しています。そのため、同じ65歳でも、例えば隣の市に住んでいる人とは保険料額が違う、所得が多い年と少ない年で保険料が変わる、といったことが起こります。
介護保険料の計算に関する注意点
介護保険料の計算ルールは理解できても、いざ実務となると「あれ?この場合はいつからだっけ?」と迷ってしまう場面が出てくるかもしれません。特に従業員が40歳や65歳といった年齢の節目を迎えるときは、保険料の徴収を始めたり終えたりするタイミングが重要で、ミスが起こりやすいポイントです。
ここでは、従業員の年齢到達に伴う介護保険料の計算や手続きに関して、担当者が特に注意すべき点を具体的に解説していきましょう。
・40歳になった翌月から給与天引き開始
・65歳になる前月分まで給与から天引き
・誕生日が1日の人は天引き開始月に注意
・社会保険の手続きと合わせて管理する
・天引き開始・終了月は給与計算で間違えないように
・対象の従業員へ事前に知らせる
40歳になった翌月から給与天引き開始
従業員が40歳になると、新たに介護保険料の支払い義務が発生します。大切なのは「いつから保険料がかかり、いつの給与から天引きするか」という点です。
法律では、介護保険の資格は40歳の誕生日の「前日」に取得することになっています。そして保険料は、資格を取得した「月」の分から発生します。
8月15日が40歳の誕生日の方なら、前日の8月14日に資格取得。ということは、8月分の保険料から支払いが始まります。
65歳になる前月分まで給与から天引き
65歳になると第1号被保険者へ切り替わるため、会社が給与から介護保険料を天引きする必要がなくなります。この徴収を終えるタイミングも正確に押さえておく必要があります。
第2号被保険者の資格を失うのは、65歳の誕生日の「前日」です。そして、資格を失った「月」の介護保険料はかかりません。8月15日が65歳の誕生日の方なら、前日の8月14日に資格を失います。
この場合、8月分の保険料は支払う必要がない、というわけです。会社が給与から天引きするのは、資格を失った月の「前月」分までとなります。
誕生日が1日の人は天引き開始月に注意
従業員の誕生日が「1日」の場合、保険料の徴収開始・終了のタイミングが通常と異なるので、特に注意が必要です。通常の誕生日であれば資格の取得・喪失は誕生日の「前日」ですが、「1日生まれ」に限っては、その「前月の末日」となります。
このルールを表にまとめると以下のようになります。
年齢到達 | 誕生日 | 保険料発生/消滅月 | 保険料発生/消滅月 | 徴収開始/終了月(通常) |
---|---|---|---|---|
40歳 | 2日~31日 | 誕生日の前日 | 資格取得した月 | 資格取得月の翌月 |
40歳 | 1日 | 前月の末日 | 資格取得した月 | 資格取得月の翌月 |
65歳 | 2日~31日 | 誕生日の前日 | 資格喪失月の前月 | 資格喪失月の当月 |
65歳 | 1日 | 前月の末日 | 資格喪失月の前月 | 資格喪失月の当月 |
徴収開始/終了月は、給与の締め日・支払日によって異なる場合があります。
社会保険の手続きと合わせて管理する
介護保険料の徴収は、従業員が会社の健康保険や厚生年金保険に入っていることが大前提です。
従業員の入社時には「資格取得届」、退職時には「資格喪失届」を提出しますが、これらの社会保険手続きと連動させて介護保険料の管理を行いましょう。40歳以上の従業員が入社したら、資格取得の手続きと同時に介護保険料の徴収準備(翌月給与から)も進める必要があります。
天引き開始・終了月は給与計算で間違えないように
介護保険料の天引きが始まる月や終わる月には、これまで見てきたように少し複雑なルールがあります。特に、資格を取ったり失ったりした「月」と、実際に給与から天引きする「月」(通常は翌月)がずれる点は、給与計算で間違いやすいポイントです。
給与計算システムを使っている場合でも、従業員の生年月日が正しく登録されているか、1日生まれの特例に対応できているかなど、設定の確認は大切です。手計算やExcelで管理している場合は、うっかり徴収開始月や終了月を間違えてしまうリスクもあります。
対象の従業員へ事前に知らせる
40歳や65歳になる従業員にとって、介護保険料の天引きが始まったり終わったりすることは、毎月の手取り額が変わる直接的な変化です。そのため、会社として事前に「来月から介護保険料の天引きが始まりますよ」「今月分で介護保険料の天引きは終わりです」といった情報を伝えておくと、とても親切でしょう。
特に40歳になる方にとっては、急に控除額が増えると「なぜ?」と不安に思うかもしれません。事前に一言添えるだけで、そうした疑問や戸惑いを防げます。
介護保険料の計算における特殊ケース
基本的な介護保険料の計算ルールに加え、実務では従業員の様々な状況に応じた対応が求められる場面があります。従業員の出産・育児、家族の介護のための休業、あるいは入社や退職、病気での長期休業など、通常とは異なるケースです。
こうした状況では、介護保険料の扱いに特別なルールが適用されたり、普段とは違う注意点があったりします。
ここでは、実務で遭遇する可能性のある特殊なケースを取り上げ、それぞれの状況で介護保険料をどう扱えばよいのか、ポイントを解説していきましょう。
・産休・育休中は申請すれば保険料免除
・介護休業中は基本的に保険料を支払う
・中途入社者は入社した月から天引き
・中途退職者は辞める前月分まで天引き
・育休後は社会保険料の見直しを確認する
・出向者の保険料は契約でどちらが払うか決める
・病気やケガで休んでいても天引き対象
産休・育休中は申請すれば保険料免除
従業員が出産や育児のために休業する場合、経済的な負担を軽くする制度として、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料)の支払いが免除されます。
この免除を受けるためのポイントは以下の通りです。
・対象期間:産前産後休業を開始した月から終了予定日の翌日の月の前月まで / 育児休業等を開始した月から終了した日の翌日の月の前月まで
・免除される保険料:健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上の場合)の本人負担分、会社負担分ともに免除
・手続き:従業員の申し出に基づき、会社が年金事務所等へ申出書を提出する必要あり
・その他:免除期間中も健康保険の給付は受けられ、将来の年金額計算上も保険料を納付したものとして扱われる
育児休業に入る従業員がいたら、会社は忘れずに「育児休業等取得者申出書」を提出しましょう。
介護休業中は基本的に保険料を支払う
家族の介護のために従業員が休業する場合、注意したいのは育児休業との違いです。介護休業期間中については、原則として社会保険料(介護保険料含む)の免除制度はありません。
介護休業中も従業員の社会保険資格は続くため、会社は通常通り保険料を納付し続ける必要があります。休業によって給与が支払われない場合でも、この点は変わりません。
給与からの天引きができない期間の従業員負担分をどうするか(復帰後に精算するのか、休業中に別途支払ってもらうのかなど)は、法律で細かく決まっていないのが現状です。
中途入社者は入社した月から天引き
年度の途中で40歳以上の従業員が入社した場合の介護保険料は、入社日から社会保険資格を取得するため、資格を取得した月(入社月)の分から保険料が発生します。
日割り計算はなく、たとえ月末入社でも1ヶ月分の保険料が必要です。
中途退職者は辞める前月分まで天引き
従業員が年度途中で退職する場合、社会保険の資格は退職日の翌日に失います。資格を失った月(退職日の翌日が属する月)の社会保険料は発生しません。
8月15日付で退職する従業員の場合、資格喪失日は8月16日となり、8月分の保険料は不要です。最後に徴収するのは7月分の保険料となります。
育休後は社会保険料の見直しを確認する
育児休業から復帰した従業員が、例えば時短勤務などで給与額が休業前より下がった場合、社会保険料(介護保険料含む)の負担が大きすぎると感じることがあります。そのようなケースでは、手続きを行うことで保険料の計算基礎となる「標準報酬月額」を見直せる可能性があります。
「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出することで、復帰後の低い給与額に基づいた標準報酬月額に改定されれば、介護保険料を含む社会保険料の負担が軽くなる場合もあります。
出向者の保険料は契約でどちらが払うか決める
従業員が他の会社へ出向する(在籍出向)場合、社会保険の加入資格をどちらの会社(出向元か出向先か)で持つか、保険料(会社負担分・従業員負担分)をどう分担するかは、出向元と出向先との間の契約によって決まります。
社会保険の資格は出向元に残したまま、給与は出向先から支払われる、といったケースも考えられます。この場合、保険料の納付義務は出向元にあるけれど、従業員負担分を出向先の給与からどう天引きするか、会社負担分を出向元と出向先でどう分担するか、などを契約で明確にしておく必要があります。
病気やケガで休んでいても天引き対象
従業員が病気やケガで長期間仕事を休み、会社からの給与が支払われなくなったとしても、社会保険の資格が続いている限り、介護保険料の支払い義務は原則としてなくなりません。
産休・育休のような保険料免除の仕組みは、私傷病による休業には適用されないのです。
会社は休業期間中も保険料(会社負担分+従業員負担分)を納付し続ける必要があります。給与から天引きできない従業員負担分をどうするかは、これも介護休業中と同様に、事前に取り決めをしておくのが良いでしょう。
介護保険料の計算方法に関するよくある質問
介護保険料の計算や手続きについて一通り見てきましたが、実際の業務では「こんな時、どうすればいいの?」と迷う場面も出てくるかもしれません。細かなルールや個別のケースについて、疑問に思うこともあるでしょう。
ここでは、よくある質問とその回答をQ&A形式でまとめました。日々の業務で判断に迷った際の参考にしてみてください。
・最新の介護保険料率はどこで確認できますか?適用開始日は?
・標準報酬月額はいつの給与に基づいて決まるのですか?
・パートやアルバイトの介護保険料加入条件は?
・従業員への介護保険料計算根拠の説明ポイントは?
・海外勤務者の介護保険料はどう扱いますか?
・役員報酬からも介護保険料は徴収しますか?
・複数事業所勤務者の保険料計算方法は?
・保険料の納付が遅延した場合にペナルティはありますか?
最新の介護保険料率はどこで確認できますか?適用開始日は?
介護保険料率は毎年見直される可能性があり、加入している医療保険によって確認先が異なります。
協会けんぽ加入であれば、協会けんぽのウェブサイトで確認するのが一番確実です。通常、毎年3月分(4月納付分)から新しい料率に変わります。
標準報酬月額はいつの給与に基づいて決まるのですか?
介護保険料の計算基礎となる標準報酬月額は、原則として毎年1回、4月・5月・6月に支払われた給与の平均額で決まります(これを「定時決定」と言います)。この決定額が、その年の9月から翌年8月までの保険料計算に使われるルールです。
ただし、年の途中で昇給などにより給与が大幅に変わった場合は、「随時改定」として標準報酬月額が見直されることもあります。
パートやアルバイトの介護保険料加入条件は?
パートやアルバイトの方でも、一定の条件を満たせば社会保険(介護保険含む)への加入が必要です。
まず、週の労働時間と月の労働日数が、同じ会社の正社員の概ね4分の3以上であれば、原則として加入対象となります。
さらに、会社の従業員数によっては(現在は101人以上)、上記の基準未満でも以下の条件をすべて満たす方は加入対象となります。
・週の所定労働時間が20時間以上あること
・月額の賃金が8.8万円以上であること
・雇用期間が2ヶ月を超えて見込まれること
・学生ではないこと
従業員への介護保険料計算根拠の説明ポイントは?
従業員から「介護保険料ってどうやって計算してるの?」と聞かれたら、分かりやすく説明したいものです。ポイントは、計算の仕組みと負担割合を伝えることです。
「毎月のお給料(標準報酬月額)に、会社が加入している健康保険の介護保険料率を掛けて計算し、その金額を会社とあなたで半分ずつ負担しているんですよ」と伝えるのが基本となります。
可能であれば、給与明細のどの項目が該当するのかを示したり、標準報酬月額がどのように決まるのかを簡単に補足したりすると、より理解が深まるかもしれません。
海外勤務者の介護保険料はどう扱いますか?
従業員が海外赴任などで日本に住まなくなった場合、原則として介護保険の対象外となります。住民票を抜いて海外へ転出した(非居住者となった)場合、日本の健康保険や厚生年金の資格も失うため、介護保険料の支払い義務もなくなります。
ただし、短期間の海外出張や、住民票を日本に残したまま海外で働くようなケースでは、日本の社会保険資格が継続することがあります。
役員報酬からも介護保険料は徴収しますか?
会社の役員(取締役など)も法人から報酬を受けている場合は、原則として健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。
役員が40歳以上65歳未満であれば、従業員と同じように第2号被保険者となり、役員報酬を基に計算された介護保険料を支払う必要があります。徴収方法も同様に、役員報酬から天引きし、会社負担分と合わせて納付します。
複数事業所勤務者の保険料計算方法は?
従業員が同時に複数の会社で働き、どちらでも社会保険の加入条件を満たす場合、少し特別な手続きと計算が必要です。
まず、従業員本人が主に働く会社を一つ選び、「二以上事業所勤務届」を提出します。
保険料の計算は、全ての会社からの報酬を合算して標準報酬月額を決定し、それに基づいて介護保険料を含む社会保険料総額を算出します。そして、その総額を、各会社が支払う報酬額の割合に応じて按分し、それぞれの会社が按分された保険料を納付する仕組みです。
例えば、A社から20万円、B社から10万円の報酬を得ている場合、合算した30万円で標準報酬月額を決め、保険料総額を計算した後、A社が3分の2、B社が3分の1の保険料を納付(労使折半)する、といったイメージです。
保険料の納付が遅延した場合にペナルティはありますか?
会社が社会保険料(介護保険料含む)を定められた期限までに納付しないと、ペナルティが発生します。督促状が送られ、それでも納付しない場合は、納付期限の翌日から納める日までの日数に応じて延滞金が加算されることになります。
延滞金の利率は決して低くはないため、遅れるほど負担は増していきます。悪質な滞納と判断されると、最終的には預金口座や売掛金、不動産などの財産が差し押さえられる「滞納処分」に至る可能性もあるのです。
介護保険料の計算方法のまとめ
今回は介護保険料の計算方法について、制度の基本から具体的な計算、年齢による違い、様々なケースでの対応、そしてよくある疑問まで、一通り解説してきました。日々の業務で関わる部分も多かったのではないでしょうか。
介護保険料の計算と徴収は、企業にとって大切な責務の一つです。特に第2号被保険者(40歳~64歳)の保険料を、正しい「標準報酬月額・標準賞与額」と最新の「介護保険料率」を用いて計算し、会社と従業員で半分ずつ負担(労使折半)した上で、給与や賞与から忘れずに天引きする、この基本の流れを確実に押さえることが重要です。
また、40歳・65歳の年齢到達時や、産休・育休、介護休業といったライフイベント発生時の特別な扱いについても、ルールを正しく把握し、適切な処理を行うことが求められます。
これらの正確な実務は、法律を守ることはもちろん、従業員の方々との信頼関係にもつながります。最新の保険料率をこまめにチェックしたり、給与計算システムの設定を確認したり、従業員へ分かりやすく説明したり…。
こうした日々の丁寧な取り組みが、確かな業務の土台となるはずです。
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