成果主義とは?年功序列との違いやメリット・デメリットから学ぶ効果的な導入方法を解説
人事評価制度の見直しを考えていますか?近年、多くの企業が年功序列から成果主義への移行を進めています。グローバル競争の激化やデジタル化の波を受け、従来の評価制度では対応しきれない課題が浮き彫りになってきたのです。
このまま年功序列を続けていては、優秀な人材の流出や組織の硬直化を招きかねません。特に若手・中堅層の離職率上昇は、多くの企業にとって頭の痛い問題となっています。そこで注目したいのが「成果主義」という選択肢です。
適切に設計された成果主義は、社員のやる気アップや人件費の最適化、適材適所の人材配置など、さまざまなメリットをもたらしてくれます。
2025年は働き方改革の深化やデジタル化がさらに加速する年でもあり、従来の評価制度の見直しは避けて通れない課題となっています。中小企業においても、人材確保のためには評価制度の改革が急務です。
この記事では、成果主義の基本から導入ステップまで、実務に役立つ情報を分かりやすくお伝えします。
目次
成果主義とは
成果主義は、社員の業績や成果に基づいて評価や報酬を決定する人事制度です。年功序列とは異なり、勤続年数や年齢ではなく、実際に生み出した価値や達成した目標を重視します。
公平性と効率性の向上を目指し、多くの企業で導入が進んでいます。
社員一人ひとりの貢献度が明確になり、組織全体のパフォーマンス向上につながる可能性がありますが、成果の定義や測定方法によって効果は大きく変わります。自社の状況に合わせた適切な設計と、短期的な成果だけでなく長期的な視点も取り入れることが大切です。
それでは、成果主義の特徴について詳しく解説します。
・業績と成果で処遇を決める欧米発祥の評価制度
・年功序列と対をなす能力・成果重視の人事制度
・純粋型・ハイブリッド型・職務型など複数の形態がある
業績と成果で処遇を決める欧米発祥の評価制度
成果主義は、もともと欧米で発展した評価制度です。特にアメリカでは個人のパフォーマンスを重視し、それに応じて報酬や昇進が決まる仕組みが一般的でした。欧州でも、スカンジナビア諸国やオランダ、フィンランドなどで広く採用されています。
この制度の背景には「公平性」と「効率性」を追求する文化があります。年功序列では勤続年数や年齢が重視されるため、若手社員や成果を出している社員が不満を抱くことも少なくありません。対して成果主義では「誰がどれだけ貢献したか」が明確になり、納得感のある評価ができるのです。
年功序列と対をなす能力・成果重視の人事制度
成果主義は、日本の伝統的な人事制度である年功序列と対照的な考え方です。年功序列では勤続年数や年齢に応じて昇給や昇進が決まりますが、成果主義では個人の能力や実績が評価の中心となります。
対して成果主義では、年齢や勤続年数に関わらず、実際の成果や能力で評価が決まります。若手でも優秀な人材は早く昇進・昇給できる可能性が高まり、組織の活性化につながります。評価基準が明確になるので、何を目指して働けばよいかも分かりやすくなるのが特徴のひとつです。
純粋型・ハイブリッド型・職務型など複数の形態がある
成果主義には、企業の状況や目的に応じて様々な形態があります。
・純粋型
・ハイブリッド型
・職務型
大きく分けると、この3つに分類できます。
純粋型は、評価と報酬を完全に成果と連動させる形です。営業職で売上目標の達成度だけで評価と報酬を決めるケースがこれにあたります。成果が数値化しやすい職種に向いていますが、短期的な成果に偏りがちという課題もあるので注意しましょう。
ハイブリッド型は、年功序列と成果主義の要素を組み合わせたものです。基本給は年功的な要素を残しつつ、賞与や昇進では成果を重視するといった形で運用されています。日本企業の多くはこの形を採用し、伝統的な価値観と新しい評価制度のバランスを取っています。
職務型は、職務の価値に基づいて基本給を決め、その上で個人の成果に応じて変動部分を決める形です。職務記述書を明確にし、各職務の市場価値を基準に給与の範囲を設定するのが特徴です。グローバル企業や外資系企業ではこの形が一般的で、職務の難しさや責任の大きさに応じた公平な評価ができます。
成果主義のメリット
成果主義を導入すると企業にはさまざまな良い効果があります。適切に設計された成果主義制度は、社員のやる気アップや組織の活性化につながるだけでなく、会社の業績向上にも大きく貢献するのです。
それでは、成果主義導入でもたらされる具体的なメリットについて詳しく見ていきましょう。
・離職率が減少する
・社員エンゲージメントスコアが向上する
・人件費の最適化で利益率が改善される
・適材適所の人材配置が実現しやすくなる
離職率が減少する
しっかりと設計された成果主義は離職率を下げる効果があります。
・「頑張れば報われる」という実感が持てる環境が整う
・年齢や勤続年数に関係なく実際の貢献度で評価される
・優秀な人材が早期に昇進・昇給できる可能性が高まる
・評価基準が明確になり、納得感が高まる
過度な成果主義で離職率が上昇した企業が、制度を見直して働き方の多様性を認める制度を取り入れたところ、離職率が大幅に下がるケースもあります。適切なバランスと企業文化への配慮が、優秀な人材の定着につながるのです。
社員エンゲージメントスコアが向上する
成果主義では目標達成で報酬が増える仕組みが明確なので、社員は自分の仕事の意義や会社への貢献を実感しやすくなります。
・目標と成果の関連性が明確になる
・自分の成長が組織の成果につながる実感が持てる
・評価の透明性により信頼感が高まる
・自発的な能力開発への意欲が高まる
成果主義導入後に実施する社内アンケートで「仕事へのやりがい」を感じる社員の割合が大きく上昇するケースもあります。高いエンゲージメントを持つ社員は組織全体の成功に貢献する行動を自ら取るため、全体の成果向上にも役立つでしょう。
人件費の最適化で利益率が改善される
成果主義の大きなメリットの一つが人件費の最適化です。
・会社への貢献度に見合った適正な人件費配分が可能になる
・「投資対効果」の考え方が人事管理にも取り入れられる
・高い成果を上げた社員に相応の報酬を支払える
・業務の無駄が省かれ、リソースの最適活用が進む
成果主義導入前は全社員の平均年齢上昇に伴い人件費が毎年増加している場合でも、成果主義導入後は人件費の伸びが抑えられ、その分を成果を上げた社員への報酬に回すことができます。この結果、会社全体の利益率が向上し、社員の満足度も上がるという好循環が生まれるです。
適材適所の人材配置が実現しやすくなる
成果主義を導入すると、社員の能力や適性に合わせた最適なポジションへの配置がしやすくなります。
・社員の強みや得意分野が評価を通じて可視化される
・実績に基づいた人材の流動性が高まる
・環境変化に対応した柔軟な組織運営が可能になる
・多様な能力を持つ人材が適切なポジションで力を発揮できる
成果主義の導入後、社員の強みを活かした配置転換を行うことで、プロジェクト完了率が向上し、顧客満足度も大幅に改善するようなことも考えられます。
成果主義のデメリットと対策
成果主義には多くのメリットがある一方で、適切に対策を講じなければ組織に悪影響を及ぼす可能性があります。特に日本企業では、協調性を重視する文化との兼ね合いで問題が生じやすいという特徴があるのです。
ここでは、成果主義の主なデメリットとその効果的な対策について詳しく解説していきましょう。
・短期志向になるリスクを中長期評価で補完する
・数値化困難な業務は「成果の前提条件」で評価する
・チームワーク低下は協働指標の導入で防止できる
・過度なプレッシャーは適切なケア制度で軽減する
短期志向になるリスクを中長期評価で補完する
成果主義を導入すると、社員が目先の成果ばかりを追求し、長期的な視点が失われるリスクがあります。四半期や半期ごとの数字だけを追いかけるあまり、将来の成長につながる取り組みや基盤づくりがおろそかになってしまうことも少なくないでしょう。
この問題を解決するには、以下のような対策が効果的です。
・短期評価(四半期・半期)と中長期評価(1~3年)を組み合わせる
・役職に応じて中長期評価の比重を高める設計にする
・研究開発部門には「特許出願数」など中長期的な指標を設定する
・管理職には「部下の成長度」といった項目を加える
若手社員は短期的な成果の比重を高くし、管理職になるにつれて中長期的な成果の比重を高くするなど、役職や経験に応じた評価バランスを取ることが大切です。
数値化困難な業務は「成果の前提条件」で評価する
成果主義の大きな課題の一つが、数値化しにくい業務の評価方法です。総務、人事、企画など、直接的な数値成果が見えにくい部門も存在します。こうした部門を無理に数値化すると、本来の業務の質が低下したり、評価の不公平感が生まれたりする恐れがあるのです。
この問題に対しては、以下のような「成果の前提条件」という考え方が有効です。
・直接的な成果だけでなく、成果を生み出すための行動も評価対象にする
・定性的な評価を取り入れる際は、できるだけ客観性を持たせる
・「顧客満足度」はアンケート結果など数値化できる指標と組み合わせる
・360度評価を取り入れ、複数の視点からフィードバックを得る
人事部門であれば「採用計画の達成率」という直接的な成果に加えて、「面接官の育成数」や「採用プロセスの改善提案数」といった前提条件も評価項目に含めるといいでしょう。
チームワーク低下は協働指標の導入で防止できる
成果主義の導入によって懸念されるのが、チームワークの低下です。個人の成果が評価の中心になると、社員は自分の成果だけを追求し、同僚への協力や情報共有が減少する傾向があります。
この問題を解決するには、以下のような「協働指標」を評価項目に加えることが効果的です。
・「チーム目標の達成度」「部門横断プロジェクトへの貢献度」を評価項目に加える
・評価配分を「個人成果70%、チーム成果30%」などバランスよく設定する
・「相互支援」や「知識共有」を具体的な評価項目として設定する
・若手育成の観点から「メンター活動」や「OJT実施状況」も評価する
「他部署からの支援依頼への対応件数」や「社内勉強会の開催回数」、「マニュアル作成への貢献度」などを評価することで、組織全体の知識レベル向上や協力体制の強化につながります。
過度なプレッシャーは適切なケア制度で軽減する
成果主義の導入によって社員が感じる大きなストレスの一つが、常に成果を出さなければならないというプレッシャーです。
このリスクを軽減するには、以下のような対策が効果的です。
・社員と上司が十分に話し合い、チャレンジングでありながらも現実的な目標を設定する
・評価結果を3期分の平均で処遇に反映するなど「バッファ制度」を導入する
・定期的なストレスチェックや産業医・カウンセラーへの相談体制を整備する
・「失敗を許容する文化」を醸成し、チャレンジ精神を評価する
評価期間の終了直後は社員のストレスが高まりやすいため、フォローアップ面談や休暇取得の推奨など、きめ細かなケアが必要です。
成果主義と年功序列の比較
成果主義と年功序列は、企業における評価制度の二つの代表的なアプローチです。これらの制度は評価基準や報酬決定方法に根本的な違いがあり、それぞれに特有のメリットとデメリットを持っています。
それでは、成果主義と年功序列の違いについて、基本思想、キャリアパス、給与カーブという3つの観点から詳しく見ていきましょう。
・「能力開発投資」と「成果への報酬」という基本思想が異なる
・キャリアパスの予測と変動性に大きな差がある
・給与カーブの形状が右肩上がりか成果連動型かで分かれる
「能力開発投資」と「成果への報酬」という基本思想が異なる
年功序列と成果主義の本質的な違いは、人材に対する基本的な考え方にあります。
両者の公平性の概念にも違いがあります。以下のような特徴が見られるでしょう。
製造業の現場では、年功序列の下で長年培われた技術やノウハウが若手に継承されていくという利点があります。一方で、IT業界のようなスピード感が求められる分野では、成果主義によって若手の意欲や創造性を引き出すことができるでしょう。
キャリアパスの予測と変動性に大きな差がある
年功序列と成果主義では、社員のキャリア形成の道筋が大きく異なります。
両者のキャリアパスの特徴は以下のような違いがあります。
金融機関では従来、年功序列に基づいた階段状のキャリアパスが一般的でしたが、近年は顧客獲得実績や運用成績などの成果に応じて早期に責任ある立場に登用する動きが見られます。
給与カーブの形状が右肩上がりか成果連動型かで分かれる
年功序列と成果主義の違いを分かりやすく示すのが、給与カーブの形状です。給与カーブとは、社員の年齢や勤続年数に対する給与水準の推移を表したグラフのことで、両者では明確に異なるパターンを示します。
年功序列型と成果主義型の給与カーブには以下のような特徴があります。
能力・成果重視型の企業であれば、25歳時点で年功型よりも約100万円高い年収が得られるケースもあるのです。
成果主義の評価指標を決めるポイント
成果主義の成否を左右する最大の要素が、評価指標の設計です。適切な指標がなければ、社員は何を目指して働けばよいのかわからず、評価者も公平な判断ができません。
特に日本企業で成果主義を導入する際は、チームワークや長期的視点といった文化的背景も考慮した指標設計が重要です。
それでは、効果的な評価指標を設計するための具体的なポイントを見ていきましょう。
・評価指標は「SMARTの原則」で設計すると効果的
・定量70%・定性30%が標準的なバランス
・評価ウェイトの設定で組織戦略と連動させられる
評価指標は「SMARTの原則」で設計すると効果的
曖昧な評価基準は「頑張ったのに評価されない」という不満を生み出します。そこで役立つのが「SMARTの原則」という指標設計の枠組みです。
SMARTとは、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性)、Time-bound(期限明確)の頭文字を取った言葉で、これらの条件を満たす指標は社員にとって明確な指標となるのです。
「営業力を向上させる」という曖昧な目標ではなく、「四半期内に既存顧客の訪問頻度を30%増加させ、顧客満足度調査で4.0以上を獲得する」という具体的な指標の方が、何をすべきかが明確になり、達成度も客観的に測れるでしょう。
定量70%・定性30%が標準的なバランス
成果主義における評価指標は、「定量評価」と「定性評価」の適切なバランスが重要になります。
以下のようなバランスが効果的だと言われています。
・定量評価:70%(客観的な数値指標)
・定性評価:30%(行動特性や能力評価)
・職種によって最適な比率は調整する
・定性評価も可能な限り具体的な行動レベルで設定する
・複数の評価者からのフィードバックを取り入れる
人事部門のように直接的な数値成果が見えにくい部門では「採用計画達成率50%、離職率改善20%、社内研修満足度30%」といった具合に、間接的に貢献度を測る工夫も必要です。
評価ウェイトの設定で組織戦略と連動させられる
評価指標のウェイト(重み付け)設定は、組織として「何を重視しているか」を社員に明確に伝えるために重要です。「品質重視」の製造業と「スピード重視」のIT企業では、評価項目の重み付けが異なって当然です。
効果的なウェイト設定のポイントは以下の通りです。
・組織の成長フェーズに合わせた配分を設定する
・部門特性に応じて評価項目を差別化する
・役職レベルによってウェイトを変更する
・評価ウェイトの設定理由を明確に説明する
・定期的に見直しを行い、環境変化に対応する
創業期の企業では「新規顧客獲得60%、既存顧客維持20%、コスト管理20%」といった攻めの配分が適切かもしれません。一方、安定期の企業では「既存顧客維持40%、利益率向上40%、業務効率化20%」など、収益性を重視した配分が考えられるでしょう。
成果主義導入の流れ
成果主義の導入は一朝一夕にできるものではありません。段階的なアプローチで丁寧に進めることが成功のポイントです。
それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。
・診断フェーズで現状と課題を可視化する
・設計フェーズで自社に最適な制度を構築する
・パイロット導入で検証と改善を行う
・全社展開とフォローアップを実施する
診断フェーズで現状と課題を可視化する
成果主義の導入前に、自社の「組織健康診断」を実施しましょう。現状を把握せずに新しい制度を導入しても、既存の問題点をそのまま引きずってしまう恐れがあるのです。
診断フェーズでは、次のような項目をチェックしていきましょう。
・部門ごとの生産性、従業員満足度、離職率などの数値分析
・現行の評価制度に対する社員の納得度調査
・業績と報酬の関連性分析
・同業他社や先進企業の事例研究
・部門特性の違いの把握
若手社員の離職率が高い部門では、年功序列の影響で能力や成果が適切に評価されていない可能性があります。また、社員へのヒアリングやアンケートを通じて「現在の評価に納得しているか」「どのような評価基準なら公平だと感じるか」といった質問をすることで、数字だけでは見えない現場の実情や社員の意識を把握できるのです。
設計フェーズで自社に最適な制度を構築する
診断フェーズで明らかになった課題をもとに、自社に合った成果主義制度を設計していきます。このフェーズでは完璧を求めすぎず、まずは骨格を固めることが重要です。
設計フェーズでは、以下のポイントに注意して進めていきましょう。
・経営理念と成果主義の整合性を確認する
・具体的な評価項目と基準を設定する
・評価と報酬の連動方法を決める
・部門特性に応じた評価基準の調整を行う
・制度をサポートする仕組みを整備する
「チームワーク」を重視する企業文化なら、個人の成果だけでなく「他部門との協働度」も評価項目に加えるなど、自社の価値観を反映させた制度設計が必要です。
パイロット導入で検証と改善を行う
制度設計が完了したら、いきなり全社展開するのではなく、まずは特定の部門や拠点でパイロット導入を行いましょう。この段階では、制度の不備や予期せぬ影響を小規模で発見し、修正することが目的です。
パイロット導入では、次のようなポイントに注意しましょう。
・異なる特性を持つ複数の部門で試行する
・3〜6ヶ月程度の期間を設定する
・定期的なチェックポイントを設ける
・評価のばらつきを分析する
・社員の納得度を測定する
パイロット期間中は1ヶ月目に「目標設定の質」や「評価基準の理解度」、3ヶ月目には「中間面談の実施状況」、最終月には「評価結果の分布」や「社員の満足度」など、段階に応じた検証を行うことで、より詳細な改善点が見えてきます。
全社展開とフォローアップを実施する
パイロット導入での改善点を反映した後、いよいよ全社展開のフェーズに入ります。この段階では、制度の細部だけでなく、導入プロセス自体も最適化することが可能です。
全社展開では、以下の点に注意して進めていきましょう。
・成果主義導入の意義を繰り返し説明する
・充実した研修プログラムを用意する
・継続的なモニタリングを行う
・定期的な「制度健康診断」を実施する
・環境変化に応じた制度の微調整を行う
導入時には全社員向けの「制度理解研修」、評価者向けの「評価スキル研修」、被評価者向けの「目標設定研修」などを行うことが効果的です。
成果主義で効果を出す具体例
成果主義を導入しても、単に制度を変えただけでは効果は出ません。具体的を見てイメージすることも重要です。
以下では、実際に効果を上げるための具体例を見ていきましょう。
・ケース1.品質指標と連動させて不良率を半減させる
・ケース2.OKRと成果主義を合わせて開発速度を向上させる
・ケース3.NPS指標を導入し顧客満足度向上させる
ケース1.品質指標と連動させて不良率を半減させる
製造業では「数」だけでなく「質」を重視した成果主義の導入が効果的です。単純な生産数量中心の評価から、品質指標と連動した成果主義へと転換することで、大きな効果が得られるケースがあります。
具体的には、下記のような品質指標を評価項目に追加してみましょう。
・不良率や返品率の低減度合い
・工程内チェックの完了率
・品質改善提案の件数と実施率
・顧客からのクレーム件数の削減率
例えば、部品メーカーでは、製造ラインの評価項目を「生産数量60%、品質指標30%、改善活動10%」という配分に見直す方法があります。従来は生産数量が重視されていたことで、とにかく「数」を出すことが優先され、結果として不良品も増加するという悪循環に陥っているような場合でも、品質指標の比重を高めることで、作業者の意識が「量」から「質」へと変化します。
ケース2.OKRと成果主義を合わせて開発速度を向上させる
IT業界などの変化の激しい業界では、OKR(Objectives and Key Results)と成果主義を組み合わせることで開発スピードを大幅に改善できます。四半期ごとのOKRと連動した評価システムは、従来の年次評価では追いつかない開発スピードに対応するのに効果的です。
OKRと成果主義を組み合わせる際のポイントは以下の通りです。
・全社目標から部門目標、チーム目標、個人目標へと段階的に落とし込む
・「何をしたか」だけでなく「どれだけの価値を生み出したか」を測定する
・個人の成果とチーム全体の成果をバランスよく評価する
・四半期ごとに目標を見直し、環境変化に柔軟に対応する
例えば、ソフトウェア企業では、個人評価を「個人目標達成度60%、チーム目標達成度40%」という配分にすることで、個人の頑張りとチーム全体の成果をバランスよく評価できるようになります。その結果、導入後1年間でリリースサイクルが大幅に短縮し、顧客へのデリバリースピードが向上。社員の満足度も高まり、離職率の低下にもつなげることができます。
ケース3.NPS指標を導入し顧客満足度向上させる
サービス業などでは、顧客視点での成果測定が競争力を左右します。特にNPS(Net Promoter Score:顧客推奨度)を軸とした成果主義への転換は、短期的な売上だけでなく長期的な顧客ロイヤルティを高める効果があります。
NPS指標を成果主義に取り入れる際のポイントは以下の通りです。
・店舗やチームごとのNPSを定期的に測定する
・NPSの結果を評価項目に組み込み、適切な比重を設定する
・低評価があった場合の即日フォローアップ体制を構築する
・顧客からのフィードバックを全社員で共有し改善策を検討する
例えば、小売チェーンでは、店長の評価を「売上目標達成度40%、NPS30%、スタッフ育成20%、コスト管理10%」という配分に設定することができます。
一般スタッフについても「個人売上30%、顧客対応評価30%、チームNPS貢献度30%、自己成長10%」という多角的な評価体系を構築することで、スタッフの行動が「販売」から「顧客満足」へと変化し、NPSが大幅に向上することが考えられます。
成果主義に関するよくある質問
成果主義の導入を検討する際、人事担当者が同じような疑問を抱えることが多くなっています。「本当に社員のモチベーションは維持できるのか」「数値化しにくい仕事はどう評価すればよいのか」といった質問は、制度設計の重要なポイントに関わるものです。
正しい答えを知っておくことで、自社に最適な成果主義制度の設計に役立てることができます。ここでは、実務に即したよくある質問を見ていきましょう。
・成果主義を導入すると社員のモチベーションは下がりませんか?
・評価者による評価のばらつきをどう防げばよいですか?
・中小企業でも成果主義は導入できますか?
成果主義を導入すると社員のモチベーションは下がりませんか?
「頑張っても成果が出ない」という状況が続くと、確かにモチベーション低下のリスクがあります。社員が短期的な成果だけを追い求め、本来の仕事への熱意や創造性が失われるケースも少なくありません。
しかし、このリスクは適切な制度設計で回避できます。ポイントとなるのは「成果の定義」と「プロセスの評価」です。以下の点に注意して設計しましょう。
・成果評価とプロセス評価をバランスよく組み合わせる
・成果の定義を多角的に設定する(売上だけでなく顧客満足度なども)
・定期的なフィードバックの機会を設ける
・評価基準の透明性を確保する
評価者による評価のばらつきをどう防げばよいですか?
同じ成果や行動でも、評価者によって評価結果が異なる「評価のばらつき」は、成果主義の大きな課題の一つです。
このばらつきを防ぐための有効な方法には、次のようなものがあります。
・評価者トレーニングの実施
・評価基準の具体化と事例の共有
評価者に対して定期的な研修を義務付け、評価基準の理解や事例に基づく評価演習を行うことが効果的です。
中小企業でも成果主義は導入できますか?
「成果主義は大企業向けの制度で、中小企業には合わない」という認識は誤りです。規模に関わらず、適切に設計された成果主義は企業の成長に繋がります。
中小企業ならではの成果主義導入のポイントは3つあります。
・シンプルな制度設計
・段階的な導入
・社員との対話重視
大企業のような複雑な評価体系ではなく、「売上目標達成度」「顧客満足度」「業務改善提案数」など、数項目に絞った明確な評価指標を設定すると良いでしょう。
成果主義のまとめ
成果主義は評価制度の変更にとどまらず、企業の価値観や文化を反映した人材マネジメントの総合的なアプローチです。年功序列からの転換で大切なのは、「何を成果と定義するか」「どう公平に測定するか」「社員の納得感をどう高めるか」という点です。
成果主義導入で特に考慮すべき主なポイントをまとめると、下記の通りです。
・評価基準の透明性と公平性を確保する
・短期的成果と長期的視点のバランスを取る
・部門特性に応じた評価指標を設計する
・評価者のスキルアップを継続的に行う
・定期的なフィードバックの機会を設ける
成果主義は万能ではありませんが、適切に設計・運用すれば、社員と企業のお互いに大きなメリットを生むはずです。長期的な視点で制度の改善を続けながら、社員一人ひとりの成長と企業の持続的な発展が両立する人事システムの構築を目指しましょう。
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