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スペシャルコンテンツ第九回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度評価の信頼性を高める回答者の条件整備」

人材開発・組織開発の効果性を高める鍵が、360度フィードバックの活用です。本シリーズでは、360度フィードバックを経営・組織・人事戦略の中に位置づけ、多種多様に活用する方法について論じます。筆者の長年の実務経験に基づくベストプラクティスを述べるとともに、議論を補強し、かつ客観性を保つために、米国における360度フィードバックの最新の議論をまとめた書籍(以下「米国のハンドブック」と呼びます)を座右に置き、適宜引用します。
(本シリーズは、CBASE-Uセミナー『戦略的360度フィードバック実現の条件』(2021年5月~7月に実施)の内容を新たにまとめ直したものです。)

(引用する「米国のハンドブック」)
『Handbook of Strategic 360 Feedback』 Allan H. Church, David W. Bracken, John W. Fleenor, Dale S. Rose (Oxford University Press 2019)

(次の拙著もご参照ください)
『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』(経営書院)

回答者の条件を整える具体的な方法

前回(第8回)、回答者の条件を整えることこそが回答データの信頼性を高めるための鍵、ということを確認しました。今回はそのための実務的な指針を、「回答者選定」「回答者のトレーニング」「回答画面のデザイン」の順で説明します。

回答者選定 (方法1:複数の目を入れて選定する)

回答者の条件を整えるうえで、回答者(評価者)選定はもっとも重要です。ルールやロジックを明確にした上で、日頃仕事上での関わりがもっともある人から10名~15名程度、選ぶことが基本となります。

どのようなロジックでどのような人が回答者として選ばれているのか判然としないと、対象者(被評価者)としても回答データの妥当性や信頼性を十分信じることができず、結果を真剣に受け止めることができなくなってしまいます。あるいは、ルールがはっきりしないため親しい人だけに評価してもらうことにし、仲間うちでお互いに良い評価をしあう「談合」がなされかねない場合にも、結果は真剣に受け止めるべきものとならなくなってしまいます。

対象者(被評価者)のみならず回答者の側も、日頃仕事で関わりがない人について回答してくれと言われても困ってしまい、結果として回答の内容が、「わからない」や「どちらともいえない」に偏ることになってしまいます。

回答者選定を適切に行うためには、選定基準やプロセスを明確にした上で、回答者選定自体にも複数の目を入れることが望ましいのです。すなわち、次のようなステップで回答者選定を行うものとし、それぞれのステップごとに、人事、本人、上司が関わることで、適切な選定を担保するのです。

【ステップ1】まず人事が回答者候補をリストアップ 「同じ部内の人」「対象者の上下2つい以内の階層の人」といった組織図上の基準に従って、候補者となる人を人事でリストアップ
【ステップ2】次に本人が回答者候補の中から選定 実際にどのような人と一緒に仕事しているか一番よく知る本人が、選定人数のルールに従って選定
【ステップ3】最後に上司が選定結果の確認・修正・承認 選定に偏りがないか、業務上本来重要な関わりを持つべき人が選ばれているかどうか等チェックし、必要に応じて上司の目で修正し、承認

以上のプロセスがワークフローとして回るよう、システム的な支援がなされていることが望ましいでしょう。

評価そのものの前に、回答者選定のワークフローを回すというのは、手間に感じられることは確かです。しかし、単なる手間・コストとしてとらえず、自分が本来業務上連携すべき人と十分に連携して仕事をしているかということを、本人・上司ともに確認する機会として、積極的に位置づけるとよいでしょう。それはフィードバックを受ける上でのよい準備であるとも言えます。

回答者選定 (方法2:組織図からロジックで選定する)

上記のように複数の目を入れて選定することがベストであるものの、対象となる社員にとってみれば、360度フィードバックの時期が来ると、「回答者選定」「実際の回答」と2つのイベントが発生することになりますので、負担感が感じられることも事実です。

そこで、人事/事務局の側で予め回答者を選定しきってしまい、社員は回答依頼に従って回答さえすればよいことにすれば、社員にとっては、360度フィードバックの負担感はおおいに軽減されます。

特に、360度フィードバックを初めて導入する場合には、社員の側も、「何を得るために何をやろうとしているのか」というイメージを十分に持てていないため、回答者選定に手間取ることも予想されることから、まずは人事/事務局で回答者選定まで行ってしまうことがよいでしょう。また、「育成」よりも「人事評価」目的で360度評価を行う場合には、回答者選定の客観性が期待される度合いが高くなるため、人事/事務局の側でベストと考えられる回答者選定を行うことへの期待が高くなります。

ただし、人事の側で回答者選定を行うことは人事にとって大きな負担となることには注意すべきです。たとえば対象者が1000人の場合には(一人あたり平均10名に評価してもらうとして)10000行のリストを作る必要がある、ということからも明らかです。そこで、ロジック/プログラムを組んで自動的に選定するのは良い方法です。たとえば次のような選定ロジックをエクセルのマクロで動くプログラムとして実装することが可能です。(これも一つの人事のDXです。)

回答者選定 (方法3:コミュニケーションデータを使う)

前述のように、組織図と役割階層に基づくロジックに基づいて回答者(評価者)を選定することが可能ですが、近年では組織図が固定されておらず、役割階層もフラット化され、プロジェクト型で仕事を進めることが多くなっています。そのような場合、人事の側で組織図に基づいて「誰と誰が仕事上の近い関係にあるか」ということを把握することは難しくなります。

その場合でも、人事/事務局がデジタルな手段で回答者を選定する手段があります。それは、コミュニケーションデータを使う、という方法です。すなわち、メール履歴等に基づいて、誰と誰が仕事上の近い関係にあるか、ということを定量的に把握するのです。

最近では、私信の側面も持つメールではなく、Slackといったチャットツールを業務上のコミュニケーションの基本手段とする場合も多くなりました。そうなるといっそうのこと、人と人との業務上のコミュニケーションの量を定量的に把握するハードルが下がります。

さらに昨今のテレワークの劇的な進展の中で、メール、チャット、ウェブ会議等含め、ほとんどの業務上のコミュニケーションが対面ではなくデジタルインフラの上で行われるようになるようにもなっています。そうすると、人と人との業務上のコミュニケーションをほぼ全て、頻度・時間など含め定量的に把握できることになります。コミュニケーション量を定量的に把握することができれば、コミュニケーション量が多い順に回答者を選定していけばよいのです。

コミュニケーションデータを人事で活用することについては、プライバシー上の懸念が表明されることもあるでしょう。しかし現実に、活用は技術的に可能になっています。また、コミュニケーションの内容(メールやチャットの内容等)には(当然のことではありますが)立ち入らず、コミュニケーションの量だけを分析するツール等も提供され始めています。

次の5点をしっかりとルール化し、社員に対しても説明できるようにした上で、人事部門とIT管理部門が共同で、ITインフラベンダーのサポートを得ながら、コミュニケーションデータの活用方法を確立していくことがよいでしょう。

  • ①誰がコミュニケーションデータを活用するか
    ②どのようなデータを活用するか(内容・形式)
    ③何の目的で活用するか=評価者選定
    ④データを活用するために、誰が誰にどのように活用を申請するか
    ⑤そのデータをどのように保存・管理するか

回答者のトレーニング

回答者を選定した上で、回答を依頼をすることになりますが、回答に先立ち、目的と方法についてしっかりと理解を得る必要があります。そのためには次の点についてトレーニングがなされることが望ましいと、「米国のハンドブック」は言っています。

    1. 360フィードバックの目的(なぜそれを実施するのか、何を達成しようとしているのか、結果はどのように使用されるのか)
    2. 何を測定するのか(例:リーダーシップコンピテンシー)
    3. 各コンピテンシーが、質問票上の行動にどのように落とし込まれているのか
    4. 使用されている評価尺度と、その尺度の各レベルの意味
    5. 一般的な評価エラー(例:寛大化、ハロー、中心傾向)とその防止方法
    6. ツールの機能(例:戻る、回答保存、項目スキップ、「ドロップダウン」の内容、コメント回答の制限文字数等)
    7.対象者の開発(育成)を支援し、評価の根拠についての洞察を与えることができるような、質の高い記述的コメントの書き方

次についてもしっかり伝える必要があるでしょう。

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