【2024年最新】多面評価とは?メリットやデメリット、制度の導入手順をわかりやすく解説
多面評価(360度評価)は、これまでの上司中心の評価ではなく、部下や同僚など、複数の立場から評価を行う方法です。そのため、一般的な評価制度と比べて公平性や客観性に優れているのが大きな特徴です。
多面評価によって、従業員一人ひとりが自分自身のパフォーマンスを多面的に把握し、気づきや成長の機会を得ることができます。また、人材育成という面でも効果的な評価制度となっています。
この記事では、多面評価(360度評価)の具体的なメリットやデメリット、導入のポイントなどを詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
多面評価とは
多面評価(360度評価)とは、従業員の業務遂行、能力、態度などを総合的に評価するために、上司だけでなく部下、同僚、場合によっては取引先など、様々な立場から評価を行う制度です。
これまでの人事評価制度である「上司主導の一方的な評価方法」の欠点を補うために導入する企業が増えています。
これまでの評価制度では、評価者の偏見や主観が評価結果に強く反映されることが問題視されていましたが、多面評価によって公平で客観的な評価が行えるようになります。
価と他者評価を組み合わせることで、自分自身に対する認識と他人からどう見られているかという点で、どの程度のギャップがあるのか明確になり、従業員の成長に繋げることができます。
多面評価を正しく運用するためには、適切な評価者を選ぶことや評価基準の設定、効果的なフィードバックを行うことが重要です。評価者は、従業員が業務を進める中で関わる様々な関係者の中から選ばれ、それぞれの評価者の視点や考えから評価を行います。
多面評価が注目される背景
多面評価が注目されている背景には、成果主義の人事評価への移行や、テレワークの増加など、企業を取り巻く環境の変化への対応があります。
多面評価を導入する企業が増えている背景について、詳しく解説します。
成果主義の人事評価が増えている
近年の日本企業では、グローバル化やIT化など環境の変化に対応するため、成果主義の人事評価が取り入れられるようになってきました。
成果主義の人事評価とは、社員個人の業績や成果に基づいて評価を行う考え方です。業務に対する意欲や生産性を高める効果が期待されています。
一方で、これまで日本企業では年功序列の人事評価が主流で、会社に在籍した年数に応じて給与や役職が上がる仕組みが一般的でした。しかしこの方式では、成果を上げていても入社年次が遅い社員は出世や評価面で不利な状況に置かれやすく、制度自体への不信感が高まることが課題でした。
実際に、年功序列の人事評価では業績を大きく上回っているにも関わらず評価に差がつかない、あるいは長く勤めたことのみを理由に高評価を受けるといったケースも多く、こうした事例に遭遇すると、社員から制度への不信感や不公平感が生まれ、モチベーションも低下してしまいます。
そのため、近年では成果や業績を正しく判断し、社員個人の実力や潜在能力を多角的に評価できる新たな仕組みが求められるようになってきました。そこで注目されているのが多面評価です。
多面評価は上司だけでなく部下や同僚など、日頃から多角的な視点で社員を評価できるため、公平性の高い判断材料を得ることが可能です。
今後もグローバル化が進む中、成果重視の流れは企業文化のなかに定着していく可能性が高く、それに合わせた公平性の高い評価制度の必要性がさらに高まっていくと予想されます。
働き方改革やテレワークの推進
近年、働き方改革とテレワークが急速に浸透していますが、これまでの人事評価制度ではしっかりとした評価を行うことが難しくなってきていることも、多面評価が注目される背景の1つです。
働き方改革関連法の施行やコロナ禍を機にテレワークが普及したことで、部下がいつどこでどのように仕事をしているのかが上司から見えにくくなりました。在宅勤務者の労働時間管理が難しいことに加え、コミュニケーション不足から上司と部下の温度差が生じやすくなっているのです。
こうした環境でこれまでの人事評価を実施すると、上司個人の主観に左右されがちです。例えば、テレワークで成果を上げていても「会社にいないからできる仕事が限られている」と評価を下げたり、稼働時間の短さからモチベーションを疑ったりする場合があります。
このように、業務が見えにくくなる中で個人の実情把握が難しい状況こそ、上司だけでなく同僚や部下など多角的な評価を取り入れる必要性が高まっています。そこで企業が導入を進めているのが多面評価です。
テレワークも当たり前となるこれからの時代に、的確な人事評価を行うには個人の実情を多面的に見極められる仕組みが必要です。
グローバル化や技術革新などの激しい変化
現代社会の激しい変化は、「VUCA」という言葉で表されています。
VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもので、不確実な時代であることを表しています。
グローバル化や技術革新によって企業の競争は激しさを増しており、企業を取り巻く環境は常に変化しています。このVUCA時代で勝ち残るためには、外部環境の変化に柔軟に対応し、スピーディーな意思決定ができる組織であることが重要です。
しかし、これまでの年功序列型の人事評価では、個人の適正や才能を正しく判断することが難しく、複雑になっている業務内容を行う人材に対して、単純な評価では対応しきれなくなってきています。
そこで、上司だけでなく部下や同僚からの評価も取り入れる多面評価により、複数の視点から個人の長所・短所を分析し、VUCA時代に対応した正しい人事評価が可能になります。
多面評価を導入するメリット
多面評価を導入することで、下記のようなメリットがあります。
・公平で客観的な評価が行える
・自分の認識していなかった強みや弱みを見つけられる
・コミュニケーションが活発になる
・管理職が自身のマネジメント能力を把握できる
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
公平で客観的な評価が行える
これまでの年功序列型評価や上司のみによる一方向の評価では、被評価者個人の様々な側面を正しく捉えきれない場合がありました。
例えば、上司と被評価者との人間関係の良し悪しによって評価が左右されることや、上司の主観的な判断によって、評価の公平性や納得性が無くなってしまう結果となることがありました。
また、一つの視点では見過ごしてしまう被評価者ならではの長所や短所があるにも関わらず、それをしっかりと評価できないという課題もあります。
そこで、こうした一方向の評価だけでなく、より公平で客観的な評価を行うことを目的に多面評価を導入する企業が増えています。多面評価は上司に加えて部下や同僚といった複数の立場の人が評価者となることから、被評価者を多面的に判断することができます。
様々な視点からの意見を取り入れることで、これまで見落とされがちだった資質や改善点が明確になります。
自分の認識していなかった強みや弱みを見つけられる
多面評価では、自己評価に加えて上司や同僚、部下などの他者評価を取り入れます。この自己評価と他者評価の間にギャップが生じる場合もあります。
このギャップが、自分の認識していなかった強みや弱みを見つけるためのきっかけとなります。他者から指摘された改善点は新たな気づきとなり、行動を変えるための動機づけになるからです。
また、複数の評価者から様々なフィードバックが得られるため、成長の方向性が考えやすくなります。自分自身の適性や目指すキャリアに合わせた戦略を立てられるようになります。
コミュニケーションが活発になる
多面評価は複数の部署や立場の人が評価者となることから、被評価者との間で日頃からのコミュニケーションが活発になる効果があります。
普段は接点の少ない他部署の同僚などからも評価を受けることで、組織横断的な人脈づくりや情報交換を促すことができます。
また、多面評価作業の過程でお互いの理解が深まる結果、部署間の連携強化につながることも大きなメリットの1つです。
例えば、営業部と管理部の間では業務に対する認識のギャップからコミュニケーションが上手くいかない場合も多いです。この場合、多面評価をきっかけに各部署の状況や考え方を理解し合う機会が持てれば、業務効率化や生産性向上に繋がります。
さらに、多面評価では評価者にも被評価者にも教育的な効果があることから、お互いの理解を深めるきっかけとなり、チームとしての一体感をより強めることが可能です。部下から上司へのフィードバックなどは、日頃伝えづらい本音の意見交換を可能にし、管理職の育成にも繋がります。
管理職が自身のマネジメント能力を把握できる
多面評価では上司も部下や同僚から評価を受けるため、自身のマネジメントが外部からどのように映っているかを多角的に把握することができます。
部下からの視点では日頃の指導方針や態度、同僚からは会議の進行能力や業務管理方法など、立場によって評価の着眼点が異なるため、管理職の改善点を様々な視点から見つけることができるのです。
特に、部下目線の意見では普段聞くことができない本音を拾う機会となり、自身のマネジメントが効果的に行えているかを判断することができます。例えば、「業務指示が曖昧」などの指摘を受けることで、管理職自身が自分のやり方を見直し、行動を改善することが可能です。
さらに、多面評価の結果は管理職同士を比較できるため、組織のマネジメント力の標準値のようなものを可視化することができ、個人の課題に加え組織としての方針を見直すこともできます。
例えば、業務効率で全社的に結果が悪いようであれば、業務の改善や社内ルールの見直しを行うことができます。
多面評価を導入するデメリット
多面評価を導入することで、下記のようなデメリットが考えられます。
・金銭的コストや作業コストが発生する
・主観的・感情的な判断で評価が偏るリスクがある
・上司の日頃の指導が甘くなる可能性がある
・評価の結果によって人間関係が悪化する可能性がある
それぞれのデメリットについて、詳しく解説します。
金銭的コストや作業コストが発生する
多面評価では複数の評価者が関わるため、一般的な上司主導の人事評価と比較して、業務量が大きく増えるという課題があります。
具体的には、評価作業そのものはもちろんのこと、事前準備から事後処理まで、評価全体を通して発生する作業コストがこれまでの人事制度以上に大きくなるのです。
まず、多面評価実施前には、評価者に対する研修・教育から評価項目の設定、評価シートの作成・配布と、人事部門の負担が増えます。さらに、評価期間中も定期的に評価を催促したり、フォローアップに時間を取られたりなど、本来の業務との並行作業が増えることで負担感が高まる可能性があります。
そして何より、膨大な量の評価結果を集計・分析し、個人ごとの結果を取りまとめる作業が評価終了後に必要です。多くの場合は外部ツールを利用しますが、その場合はライセンス料などの初期費用と運用費のコストが発生します。
このように多面評価の導入には直接的な金銭的コストに加えて、関連業務が増えることに伴う作業コストも増加するため、トータルの運用コストはこれまでの人事制度よりも大きくなる傾向にあります。
主観的・感情的な判断で評価が偏るリスクがある
多面評価の大きな特徴は、評価者に上司や同僚、部下といった複数の立場の人が含まれることです。これにより、様々な視点からの評価が可能になる反面、評価経験の乏しい一般社員が加わることで主観的・感情的な判断が入り込み、評価が偏ってしまうリスクがあります。
例えば、日頃から仕事で助けてもらっている部下や、個人的に親しい同僚に対しては評価が甘くなったり、逆に対立関係にある人物に対しては厳しい評価をするなど、評価者自身の立場や感情が結果に表れる可能性があります。
ほかにも、評価対象者とあまり接点がなければ、所属部署や性別などの先入観から正しい評価を行えない可能性も考えられます。
こういった個人の評価者レベルでの偏りは、集計した後に平均化することである程度は緩和されますが、完全に防ぐことは難しく、最終的な評価の精度を落としてしまう原因となります。
さらに重大なリスクとして、この偏りが多面評価制度の信頼性を下げてしまう可能性があります。評価の前提条件である公平性や透明性が損なわれることで、被評価者からの不信感が高まることが考えられます。「評価は公平で客観的なものなのか」と従業員が疑念を抱くことがないように注意しましょう。
上司の日頃の指導が甘くなる可能性がある
多面評価を導入することで、上司が部下からの評価を過度に意識してしまうあまり、日頃の指導が甘くなる可能性があります。
例えば、「指導力が無い」と思われたくないために、本来必要な注意喚起や指導を控えるようになったり、成果に対する評価を甘くしたりすることで、結果として部下の育成に支障が出てしまうことが考えられます。
具体的には、指摘すべきミスに目をつむったり、遅刻などの問題行動を放置したりすることで部下が改善をしなくなることや、パフォーマンスが下がることにつながる可能性があります。
上司としての指導力やリーダーシップを失うことで、部下のモチベーションや士気にも悪影響を与えるため、大きなリスクといえます。
そのため、多面評価を導入する際はこのようなデメリットが表面化しないように、上司と部下両方が十分に多面評価について理解することが重要です。
評価の結果によって人間関係が悪化する可能性がある
多面評価では、評価者と被評価者の間で評価の結果によって人間関係が悪化してしまう可能性があります。
例えば、自身への評価が低かった場合、評価した人が誰であったかを考え不信感を抱いてしまうことが考えられます。「誰が悪い評価をつけたのか」と周囲の同僚を疑うことで、日頃からのコミュニケーションに支障が出たり、些細なことでイライラしたりする可能性があります。
逆に評価者側も、自分が行ったフィードバックが改善に活かされていないと感じる場合、多面評価制度への信頼性を失うことが考えられます。こうした被評価者への不信感から、本来すべき指摘ができなくなることも考えられます。
さらに、重要な情報である評価データの取り扱いについての意見が対立することもリスクの1つです。例えば、評価結果を公表する範囲や、評価後の活用方法に関しての意見が対立する場合、社内での立場の違いによって人間関係が悪化してしまう可能性があります。
そのため、評価データなどを適切に管理すること、建設的なフィードバックを徹底すること、多面評価制度の理解を進めることなど、予防策を検討する必要があります。
多面評価の導入手順
多面評価は下記の手順と流れに沿って導入していきます。
・STEP1:導入の目的を明確にする
・STEP2:評価者の設定
・STEP3:評価項目と評価方法の設計
・STEP4:評価者に制度導入の背景や評価方法の説明を行う
・STEP5:評価の開始とフィードバックを行う
導入手順をひとつずつ詳しく解説します。
STEP1:導入の目的を明確にする
多面評価を導入する際の最初のステップが、導入の目的を明確にすることです。
多面評価には大きく分けて2つの目的があります。一つはより公平な人事評価を行うこと、もう一つは従業員の気づきと成長を促す人材育成です。
例えば、新しい評価軸を加えることでこれまでの人事評価の精度を高めたい場合は前者、部下からのフィードバックで管理職の指導力不足に気づかせたい場合は後者、といった具合に、目的に応じて区別します。
目的が異なれば、評価者の選定方法や評価結果の扱い方も変わってきます。人事評価が目的であれば評価データを活用し、人材育成が目的であれば本人へのフィードバックにとどめるなど、活用方法は様々です。いずれにしても最初に目標を明確にすることで、その後の具体的な制度設計がスムーズになります。
逆に目的が漠然としていると、準備も試行錯誤的になりがちで、結果として効果的な運用につながりにくくなります。例えば、管理職の指導力不足が課題と感じつつ、 「何となく全社的に実施してみる」という場合、多面評価制度への理解が足りず形式的な評価になる可能性が高くなります。
STEP2:評価者の設定
多面評価では1人の被評価者に対して、上司・部下・同僚といった複数の評価者が設定されます。評価者をどの範囲で何人設定するかは制度設計上の重要なポイントです。
まず評価者数ですが、1人に対して5~15名程度が適切です。数が少ないと十分なデータが得られず評価の信頼性が下がりますし、逆に多すぎても作業負荷が高くなり過ぎます。
例えば、部下10名を持つ課長を被評価者とする場合、上司1名・部下5名・他部署2名の計8名という具合に設定することができます。
関係性においては、被評価者と直接の上下関係にある人と、より離れた立場の人を適度にバランスよく配分しましょう。例えば、製造現場の作業責任者であれば、直属の上長と作業員に加え、製造管理部門や品質管理部門からも意見を取り入れることで、多角的な視点で評価を行うことができます。
ただし、部下が複数いる管理職の場合、全員から回答を取ると評価作業の負荷が高すぎます。そこで、5~6名程度のサンプルを設定して回答を依頼する方法もあります。過度な負担を避けつつ、複数の評価を集めるための工夫が必要です。
STEP3:評価項目と評価方法の設計
多面評価でも特に重要になるのが評価項目と評価方法の設計です。評価項目は被評価者の立場に応じて設定します。
例えば、管理職であればリーダーシップや組織運営力、部下の育成能力といった管理能力に関する項目を中心に設定します。
一方で、現場スタッフであれば業務処理能力や創意工夫力、対人スキルといった個人の資質・能力を問う項目が主体となります。
方法としては多肢選択式の設問を設定して数量化したデータを収集する定量評価と、自由記述によるコメントを集める定性評価が代表的です。定量評価では数値結果の集計・分析がしやすい反面、定性評価のように具体的な改善点を提示しづらい特徴があります。
そこで、両方を組み合わせることで、定量評価で結果を捉えつつ定性評価で手応えのある気づきを引き出すという併用が効果的です。
例えば、「リーダーシップスキルに関する6つの観点を5段階評価した結果、『部下の意見を取りまとめる能力』が他項目と比較して低評価でした。自由記述欄には『会議運営が拙く、形式的すぎる』といったコメントが寄せられています」という分析をフィードバックすれば、被評価者側も改善ポイントが分かりやすく、行動を見直しやすくなるでしょう。
このように、評価項目と評価方法はセットで検討し、特性を理解したうえでバランスよく設計する必要があります。
STEP4:評価者に制度導入の背景や評価方法の説明を行う
評価者には人事考課に慣れ親しんだ層だけでなく、評価経験の浅い人も多く参加します。そうした評価者に対して事前説明を行い、多面評価制度の意味や注意点を十分に理解してもらうことで、偏った判断を避けるうえでは大切なポイントとなります。
具体的には、多面評価の目的と導入の背景を丁寧に説明します。例えば、より公平性の高い評価体系を整備したい、気づきと成長の機会を与えたい、という制度設計の想いを伝えることで、評価者自身の多面評価制度への理解と協力を得ることができます。
ほかにも、評価時の注意点として、自身の感情や主観を入れずに評価を行うこと、特定の個人への批判や誹謗中傷は決して行わないことなどを明確に伝えます。こういった評価者の教育を行うことにより、偏った判断を事前に防ぐことができます。
さらに具体的な評価作業として、回答の選択肢の考え方や判断基準、記述式の活用方法といった細かな説明も必要です。評価方法を具体的に説明することで、作業への不安要素を取り除きつつ適切な評価結果を引き出すことが可能です。
STEP5:評価の開始とフィードバックを行う
多面評価を導入したら、次のステップは実際に評価を開始し、結果をフィードバックしていきます。
まずは事前に決めたスケジュールに沿って、評価者に向けてアンケートを配布したり、オンラインの回答フォームを共有したりして、評価を実施します。
集まったデータを基に評価結果をまとめたら、次は被評価者に適切なフィードバックを行います。良かった点や改善点を伝える際は、データだけでなく具体的にどういった行動をすべきかということも伝えることが重要です。
例えば、「コミュニケーションスキルが低い」という結果だけでは改善点が掴みづらいですが、「ミーティング時の発言数が極端に少ない」「メールへの返信が遅れがち」など、状況をイメージしやすいフィードバックを交えることで、被評価者側も行動を改善しやすくなります。
その上で、改善目標を設定し、後日確認を行うことを約束することでPDCAサイクルを回すようにしましょう。こうした一連のフローを確立することで、多面評価の本来の効果を引き出すことができます。
多面評価の管理職向け評価項目例
多面評価で管理職を評価する場合、下記のような評価項目を設定します。
・リーダーシップ
・組織づくり・組織運営能力
・人材育成
管理職向けの評価項目例について、それぞれ詳しく解説します。
リーダーシップ
管理職にとって、部下の能力や個性を理解し、一人ひとりに合わせた指導ができているかは重要な評価ポイントです。
例えば、積極的に意見を言う部下に対しては、その意見を活かす機会を与えることが大切です。一方で、内向的な部下に対しては、考えを引き出す対話の機会を作る必要があります。
このように、部下それぞれの性格や能力に応じたコミュニケーションがとれているかを評価します。
また、管理職には中長期的なビジョンを持ち、部下と共有することが求められます。例えば、3年後の部署のあるべき姿や、そこに至るまでの具体的なロードマップを示し、部下の納得と実行へのコミットメントを引き出すことが重要です。目標達成に向けた部下の動機づけにもつながります。
さらに、建設的なコミュニケーションも管理職には必要な要素です。例えば、部下のミスを単純に責めるのではなく、原因を探り、再発防止に向けて自ら気づきを促すための対話ができるかどうかが評価されます。否定的な言い回しをできるだけ避け、前向きな姿勢でコミュニケーションを取ることが重要です。
組織づくり・組織運営能力
部下とのコミュニケーションの機会をいかに用意できるかがポイントです。例えば、週に1回、部下との個別面談の時間を設けることなどがあります。こういった機会を作ることで、部下が仕事やプライベートで感じているストレスや不安を聞き出し、サポートすることができます。
面談時に仕事の進捗を確認するだけでなく、普段では聞きにくい本音の話もできるでしょう。
次に、組織運営能力として、問題やトラブルが起きた時の対応力が評価されます。例えば、急ぎの案件が入った時に部下が困っている場合、管理職が落ち着いて指示を出し、全員で力を合わせて乗り切ることが大切です。
このような、組織をまとめる力が評価されます。
さらに、部下の頑張りをチーム全体の成果として高く評価することも必要です。例えば、部下の提案でプロジェクトが成功した場合、それを全社で評価し、チーム全員で達成感を喜び合うことも重要です。
個人の活躍を評価すると同時に、チームの一体感を作ることができます。
人材育成
管理職には部下を成長させるという大切な役割があるため、人材育成に関する評価は重要です。例えば、新入社員が入社してきた時、社会人としての基本的な知識や会社の業務に関する知識がまだ不十分な状態です。
この場合、管理職は新入社員に対して「目標設定」を行う必要があります。具体的には、1年後、3年後、5年後にどのようなスキルを身につけ、どのような成果を出せるようになってほしいかという目標を設定します。こうすることで新入社員は自分がどのように成長していけばよいかの目安が分かります。
次に「支援」です。目標を設定しただけでは新入社員は戸惑ってしまいます。必要なスキルは何か、どうしたら目標を達成できるのか指導していくことが大切です。例えば、必要な知識を段階的に教えたり、先輩社員との交流の機会をつくったりすることが「支援」にあたります。
そして「適切な評価とフィードバック」を行います。新入社員の成長の度合いを適切に評価し、足りない点やよい点をフィードバックすることが重要です。評価とフィードバックを通じて、新入社員は目標達成に向けた行動を取ることができます。
多面評価の一般社員向け評価項目例
多面評価では、一般社員に期待される能力として「主体性」「実務遂行力」「協調性」などが重要視されています。
これらの能力は日常業務の中で必須の要素であり、優秀な社員と他の社員を判断する指標にもなります。主体性が高く実務遂行能力に優れ、協調性のある社員は一般的に評価が高く、会社からの信頼も厚いでしょう。
ここからは、多面評価の一般社員向け評価項目について詳しく解説します。
主体性
一般社員にとって、多面評価で特に重要視されるのが「主体性」です。
主体性とは、自分の頭で判断し、自律的に行動できる力のことです。具体的には、上司からの指示を待つのではなく状況を見て自分で考えて判断し、行動することができるかどうかを評価する項目です。
例えば、営業職の場合、月末の売上目標達成に向けて、単に上司から指示された行動だけをするのではなく、目標達成のために自分で計画を立て提案を出し、行動できているかが重要な評価ポイントとなります。
「今月の目標達成のために、◯◯商品を集中的に宣伝する必要があると考える。そこでコスト20万円のチラシを××部数作成し、全顧客に送付したい。効果がでると目標達成も可能だと思う」などといった計画を主体的に立案し、提案できるかどうかが問われるということです。
主体的に行動するには、目標達成に向けた優先順位をつけた上で、自分が取るべき具体的な行動を決める必要があります。他者依存では主体性は身につきません。
状況判断力、計画力、行動力が備わっていれば、主体性を発揮できるといえます。主体性のある社員ほどクリエイティブな発想で仕事を進め、結果を出しやすくなります。
実務遂行力
実務遂行力は、与えられた業務を最後までやり遂げ、目的や目標を達成させるための力のことです。
例えば、新商品のプロモーションを計画する担当であれば求められるのは、計画から実施、結果の評価までの一連のプロセスを確実に実行できる力です。
具体的には、新商品販売開始に向けたプロモーション計画の立案を任されたとします。この場合、社員はまず目標と予算の設定から始めます。次に、立案された計画が目標達成できるかどうかを考えます。
チラシ送付や試供品配布といったプロモーションを計画通りに実施できたかどうかを評価し、もし計画通りに進めることができなかった場合は、なぜ計画を変更しなければいけなかったのかを分析します。
最後に、実際の売上実績から計画時の目標が達成できたかどうかを判断します。目標を達成できなかった場合は、次回に向けた改善策を考えることが求められます。
この一連の流れを進める力が「実務遂行力」です。多面評価では、この点が他の社員からどのように評価されているのかをチェックすることができます。
協調性
「協調性」は仕事を進めるうえで他のメンバーと協力し合う力のことですが、例えば、同僚が作業の遅れなどで困っている場合、自発的に手伝ったり相談に乗ったりすることができるかどうかが評価されます。困っているメンバーを見過ごさず、積極的に手を貸せることが協調性の表れです。
また、チーム内で意見の違いや対立が起こった際に、柔軟な姿勢で意見を聞き入れることも大切なポイントです。固定観念にとらわれずに、建設的な議論でお互いの理解を深めることが評価されるといえます。
さらに、自分の部署やチーム全体の改善についても、他部署と連携を取ったりアイデアを出し合ったりするなど、前向きで協力的な姿勢が求められます。
多面評価を実施する時のポイントや注意点
多面評価を実施するには、ポイントや注意点を知っておく必要があります。これらを押さえておかないと、多面評価の目的を達成できず導入失敗を招くリスクがあるからです。
多面評価を成功させるには、ここで解説するポイントを踏まえているかどうかがとても重要になります。
それぞれのポイントについて、詳しく解説していきます。
導入目的を明確にして全従業員と共有する
多面評価を実施する際には、特に導入目的を明確にして全従業員と共有することが重要です。
多面評価には「人材育成」と「公正な評価」の2つの主な目的があります。例えば、「人材育成」を目的とする場合、評価結果を直接的な人事考課には利用せず、被評価者個人の気づきと成長に活かします。
一方「公正な評価」を目的とする場合は、評価結果を人事考課や賞与算定などの具体的な人事施策に反映させることが前提条件となります。
このように、多面評価の目的によって評価結果の扱い方やフィードバックの方法が変わってきます。
そのため、最初に多面評価の目的を明確にしたうえで全従業員に十分周知することが重要なポイントとなります。目的が曖昧のまま多面評価を開始すると、被評価者から不信感が生じたり、評価者が適切な評価ができなかったりする恐れがあります。
例えば、全社員に多面評価の趣旨を直接説明する会議を開く、メールやドキュメントを送るなど、理解度を高めるための機会を作りましょう。ほかにも、個別の質問も受け付ける窓口を用意することで、全従業員の納得感を高められます。
評価基準の統一
多面評価を効果的に機能させるためには、評価基準を統一させることが必要です。評価を行ううえで評価者自身の主観が入り込みやすく、評価にバラつきが出て公平性を欠く結果となる可能性があるためです。
例えば、評価者によって基準が異なると、同じレベルの業務能力であっても評価に差がでてしまいます。そうなると被評価者は「なぜ◯◯さんは高い点数なのに、自分は低い点数なのか」と不信感を覚えてしまいます。
そこで、多面評価を運用するうえでは評価の基準を明確化し、全評価者が同じ基準で評価できるように統一する必要があります。
こうすることで評価者が念頭に置くべき基準が共通化され、評価の公平性・一貫性が高まります。
フォローアップの実施
多面評価で得られた結果を単に本人に渡すだけでは、その後の行動変容に結び付きにくくなります。評価後も適切なフォローアップを行うことが大切です。
具体的には、評価結果を踏まえた個別の面談を実施することが効果的です。面談では本人の特徴的な強みや弱みを確認した上で、どういった点に着目して今後の業務に取り組むべきかをアドバイスします。
例えば、コミュニケーション能力に課題がある社員の場合、「他者の話を最後までじっくり聞く」「自分の意見だけを押し通さない」といった改善点を伝えるようにしましょう。
その上で、それらの点が身についているかを把握するために、1ヶ月後を目処に再評価をするといった細かい計画を立てることもできます。
こういった適切なフォローアップと次のステップの設定を行うことで、多面評価は社員の前向きな行動変容に繋がります。
評価者の適切な選定と育成
評価者を適切に選定し、研修によって偏った評価をしないための育成が多面評価を公平に機能させるために重要です。
多面評価の場合、評価者自身の主観が入り込みやすいため、公平な評価ができない可能性があります。
そこで、まず評価者を選定する際には、被評価者と接点の多い人を優先的に選ぶなど、選定基準を設ける必要があります。被評価者の業務内容をある程度知っている人でないと適切な評価が難しくなるためです。
また、評価者に対しては事前研修を行い、多面評価の目的や注意点を伝えておくことも大切です。研修では主観的な評価を避ける考え方や、評価表のつけ方を共有します。
例えば、被評価者との人間関係の良し悪しで評価が左右されないよう注意喚起したり、評価の視点ごとに具体的な判断基準を伝えたりします。
匿名性の確保
多面評価の匿名性を高めることが、偏りのない適正な評価を実施することに繋がり、円滑に運用することにつながります。
多面評価のデメリットの一つとして、評価者と被評価者の人間関係に悪影響が出てしまう可能性があります。そのため、多面評価を実施する際には、「匿名性の確保」が欠かせないポイントです。
例えば、上司が部下から低い評価を受けた場合、その部下を特定できてしまうと、上司からの報復を恐れることになります。部下が上司に低い評価をつけたがために、昇給昇進で不利になるのではないかと不安に感じることもあるでしょう。
そこで、多面評価の回答については匿名で行うことが基本です。具体的には、回答者の属性情報を一切入力させず、評価表も名前を書かない形で回収する等の配慮が必要です。
匿名性が担保されることで、評価者は被評価者への影響を気にすることなく素直な評価ができるようになります。被評価者にも評価者が判明しない安心感が得られます。
多面評価のまとめ
多面評価は、上司だけでなく部下や同僚など、複数の立場から評価を行う制度です。一般的な人事評価と比べて、公平性と客観性に優れている点が大きなメリットです。
自己評価と他者評価のギャップから気づきを得られたり、社員の成長に役立ったりするなど、人材育成の面でも効果的です。
一方で、評価者の選定や運用コスト、評価の偏りなどには注意しましょう。適切な評価者の設定や事前研修、目的の明確化といった対策は必須です。
多面評価にはメリットもデメリットもありますが、正しく効果的に運用すれば公平な評価と社員の成長に繋がる評価制度です。ぜひ皆さんの会社でも検討いただければと思います。
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